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スペシャルインタビュー

来春、軽井沢に住み替え予定の蟹瀬誠一さん(ジャーナリスト)に聞く 自然と寄りそう暮らしを求めて

ジャーナリストとしてメディアで活躍中の蟹瀬誠一さん。実はプライベートでは、現在、住み替え準備の真最中。子育てを終えた蟹瀬さんのこれからのセカンドライフ、そして来春に控えた住み替えに寄せる想いを伺いました。

50代からは、本当の豊かさにこだわりたい

―蟹瀬さんは近々、軽井沢に住み替えを実行するそうですね。日本ではこれまでは家を買ったら一生そこに住み続けるという風潮が強かったのですが、最近では人生の節目ごとに「住み替える」という考え方が出てきています。この考えをどう思われますか。

僕は、留学や通信社勤めでけっこう海外で生活してきましたが、彼らは人生のステージごとによく住み替えますよね。僕も結婚した当初は、共働きなので便利な中野坂上に住んで、それから子どもが生れてからは、子育てに環境の良いところというので阿佐谷、吉祥寺と引っ越しました。そして今、子どもたちが独立してまた夫婦2人に戻ったので、住まい方も変えようと思ったんですよ。やっぱり人生のその時々で、住まいに求めるものは変わってくると思うんです。その時に「持ち家」に縛られてしまうのは残念な話ですよね。これからの人生の中で、一番大切なことは何なのか。それには今住んでいる場所はベストなのか。子育てを終えた時点で、じっくり考えてみてもいいんじゃないでしょうか。

―軽井沢の新居は2007年春に完成するそうですが、以前に蟹瀬さんは、家に関しては「永久賃貸派」とおっしゃっていた記憶があります。

東京の住まいは今も賃貸です。確かに以前は、不動産を買うのは窮屈で嫌でしたね。でもこの年になって(現在56歳)自然のあるところに住みたいと強く思うようになりました。それも自分の思い通りの家を建てて。

軽井沢といっても、別荘を建ててリッチに遊ぼうというんじゃないんです。本宅です。住民票も移して、仕事にはそこから向かいます。新幹線に乗れば東京まで1時間という距離ですからね。何度も現地に出向いて、あらゆる面で気に入りました。不安なのは浅間山の噴火ぐらいですかね。(笑)。

―メディアを中心に活動する蟹瀬さんが東京を離れて田舎暮らしとは、どういった心境の変化なんでしょう。

僕は「これからはこう生きるぞ」と、年代ごとに方針を決めているんです。20代は若さを思う存分発揮して「美しく」、30代は仕事や家庭に責任が出てきますから「強く」、40代はそこに「賢さ」を加える。そして50代から僕が目指しているのは「豊かさ」なんです。それも物質じゃない本当の意味での心の豊かさ。今はクラシック音楽やバレエが大好きですけど、そういう芸術に親しむようになったのも50を過ぎてからです。

都会というのは便利ではあっても、すごくストレスを感じるんですよね。動物だっていくら空調が効いていてもコンクリートとガラスの檻じゃ病気になるでしょう。そりゃあ新幹線で一時間といっても、都心で仕事をするには不便は出てきます。でも僕のこれからの人生は、そこに重きをおいていないんです。多少面倒でも、これからは自然に囲まれて暮らしたい。ただし隠遁するつもりもないです。当分は都心の事務所兼住居は残しますから、マルチハビテーションですね。この言葉、英語にはないんですが、このあいだ外国雑誌の原稿で使ったら理解してもらえましたよ。

―夫が田舎暮らしを言い出すと妻が反対する、という話しをよく耳にしますが。

僕の友人もそれでずいぶんトラブルになっているようですよ(笑)。賃貸派の僕と違って、もともと妻はしっかり自宅を構えたいという性格です。ようやく僕が家を建てる気になったら、軽井沢ですからね。彼女にしたら「えっ!」という感じだったでしょう。個人差はありますが、基本的に女性は都会の利便性が好きですし、逆に男はある年齢になると海や山に住みたくなってくる。

それで、とにかく現地を妻に見せようと、2人で目星をつけていた土地を見に行ったんですが、たまたまそこに、すごくいい感じのコブシの木が生えていたんです。彼女は、木や草花がとても好きなものですから、「この木があるならいいかなあ」と態度が急速に軟化しました。田舎への住み替えを考えている男性は、妻の同意をどうとりつけるかはとても大切なポイントだと思いますよ。僕の場合はコブシの木という幸運に恵まれましたが、そこは少し時間をかけて丁寧にやった方がいいですよ。

住み替えで生れる新しい出会いが楽しみ

―軽井沢ではどんな風に過ごそうと考えていますか。

イギリス人みたいに散歩の美学を究めたいですね。軽井沢は自然が美しいので、ただ散歩するだけで楽しいんですよ。趣味を聞かれて、素直に「散歩」と答えられる。これって、実はとてもカッコいいことなんだと最近思っています。家を建てるのにそれなりのお金はかかりましたが、軽井沢で遊ぶのには全然お金がかからないんですよ。結局、トータルでは安く上がるんです。

―地方への住み替えというと、新しい人間関係を心配する方も多いようです。

考え方次第だと思うんです。今、取材を受けているこのホテルですが、すぐ隣に僕の事務所兼住居があるので、ここには毎日来ています。ラウンジは僕の応接室と言っていいぐらい。だから、僕はこのホテルのかなりの数の従業員と知り合いになっています。でもそれは、単に毎日顔を合わせているからじゃなくて、僕の方からちょっとだけ積極的に、彼らに話しかけたり声をかけてきたからです。僕はそんな風に新しく人と出会ったり、そこから新しい発見をするのが好きなんです。ほんのささいな働きかけですが、それをしていなければ、10年経っても赤の他人のままだったでしょうね。自分からひと言でも声をかけてみる。そんな小さな勇気を出すだけで、ずいぶん人との関係って違ってくるものですよ。

それに、別に今までの人のつながりが切れるわけじゃないんです。今はインターネットだってあるし、国内ならどこに行ったって数時間で戻ってこれます。それよりも、新しいネットワークが広がることの方に僕はワクワクしますね。

―住民票も移すということですが、それはお客さんではなく、住民として軽井沢とつきあっていくことですよね。

軽井沢の魅力のひとつに、自然が豊かな一方で非常に質の高いレストランや蕎麦屋さんがあったりして、都会的なアメニティを併せ持っているという点があります。でも、無制限に都会的なものが押し寄せてくると、本来の良さが失われてしまう。だから軽井沢という地域を良くしたり、環境を守る活動には、住民として積極的に関わっていきたいですね。いざとなれば町長選に出馬してもいいぐらい。まあ冗談ですけど(笑)、そういう覚悟で移住するつもりです。

蟹瀬誠一(かにせせいいち)/ジャーナリスト 明治大学教授

1950年石川県生まれ。74年上智大学文学部卒業。米国AP通信社記者、フランスAFP通信社記者・写真部次長、『TIME』誌東京特派員を歴任。日本の政治・経済・社会・文化にわたる幅広い問題を海外に伝える。その後、『報道特集』(TBS系列)等のパーソナリティとして活躍。現在は『賢者の選択』(BS朝日)、『経済討論バトル頂上決戦』(朝日ニュースター)のメインキャスターを務める。2004年からは明治大学で教鞭もとっている。

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